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グリーン電力率308%のサムソ島
サムソ島は何十年もの間、海底ケーブルを通して電力を島外から「輸入」し、船で石油も「輸入」していました。つまり、島のために役立てられる多額のお金が島外に流出していたのです。
その後サムソ島は、自島と近隣のテゥーノ(Tunø)島の消費量を大幅に上回るエネルギーを生産するようになり、電力を収入源へと転換させました。地域熱供給の熱源として島内から麦わらを購入し、全体として化石燃料コストを大きく減らすことができました。
「化石燃料コストの削減は、年間1,000万〜1,500万デンマーク・クローネ(約1.6~2.4億円)にのぼると推定されます」とサムソ・エネルギー・アカデミー(Samsø Energy Academy)所長ソーレン・ハマーセン(Søren Hermansen)氏は言います。
人口3,700人余りの島にとって、これはかなりの額です。しかし、「再生可能エネルギーの島」として自らを確立したことから得られた経済的な見返りは、これにとどまりません。
島の消費電力の308%を生産する風力発電と太陽光発電と、バイオマスを活用した地域熱供給システムを導入した成功劇は一躍話題を呼び、国内外から大臣や大使などの要人やテレビ局をはじめ、年間何千人もの「エネルギー観光客」が島を訪れるようになりました。サムソ・エネルギー・アカデミーや、島のレストランやホテルに雇用が生まれ、その規模は30人分の新たなフルタイム雇用に匹敵しています。
また、島で行われる活発なプロジェクトに対し、資金援助も行われています。最近ではサムソ・エネルギー・アカデミーの「持続可能なコミュニティを世界に拡大する活動」Tentouプロジェクト*がKR Foundationから資金を受け、アメリカのハワイ州とメイン州、オーストラリア、日本、EUとの合同プロジェクトを立ち上げました。
「化石燃料が消費エネルギー源の80%を占める世界においては、さほどの影響力はないかもしれません。しかし、より持続可能な未来に対する信念と希望を与えられたらと考えています」とハマーセン氏は語ります。
DSO(配電事業者): 問題なし
再生可能エネルギーの分野で世界的に有名になるには、地元の強い協力、そして住民の多くが「何がコミュニティにとっての善か」を考えることが必要です。1990年代にサムソ島が国の「再生可能エネルギーの島」に選ばれ、資金供与を受けられたことも一つの要因でした。
島の電力網が大規模な電力系統につながっていることも重要です。
サムソ島とユトランド半島の間には2本の海底ケーブルが走り、環状の接続により極めて安定的な電力供給を確保しています。オーフスにあるNRGi Net社で電力系統の責任者を務めるミケル・グロンホイ(Michael Grønhøj)氏は、サムソ島の再生可能エネルギーの比率の高さは、技術的に何の支障もきたさないと説明します。
島にとっての価値を創出し続け、国際的な注目度を維持するために、サムソ島は進化を続けなければなりません。現在、陸上および洋上風力発電は、太陽光発電、エネルギー効率の向上に向けた改築、ヒートポンプ、電気自動車などにより補完されています。以前ディーゼルを燃料としていたユトランド行きのフェリーは、現在、液体天然ガスで運転されています。さらに今後はこれを地元で生産されたバイオガスや電力へシフトしていく計画です。
ハマーセン氏は「次のステップは、(バイオマスの活用を目指す)バイオ・エコノミー、循環型経済の可能性を分析することです」と言い、地域熱供給システムにヒートポンプを導入して使う麦ワラの量を減らし、その分の麦ワラをバイオガス生産に使用するのが最善かもしれないと考えています。
遠隔地のコミュニティに共通した問題として、サムソ島は住民の島離れと安定した納税者の減少の悪循環に脅かされています。これが再生可能エネルギーの島としての活動に起因するものかどうかは判断できませんが、島を離れる人よりも島へ移り住んでくる人の方が多いのも事実です。出生数の低さが島の課題となっています。
*Tentouプロジェクトとは、サムソ島で再生可能エネルギーの導入にあたってサムソ・エネルギー・アカデミーによって行われた住民とのかかわりのプロセスにおける経験を国際的な自然エネルギー団体と共有し、参加団体が共にこれらのプロセスについて議論し、どのように洗練させ、地域で応用できるのかを探るプロジェクトです。ご参考:http://www.isep.or.jp/archives/library/10372